EXHIBITION | TOKYO
シルケ・オットー・ナップ(Silke Otto-Knapp)
<会期> 2026年8月1日(土)- 9月19日(土)
<会場> Taka Ishii Gallery Kyobashi
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
タカ・イシイギャラリー 京橋は、8月1日(土)から 9月19日(土)までシルケ・オットー・ナップの個展を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでは8年ぶり4度目、没後初となる本展では、2006年から2019年までに制作された作品約8点を展示いたします。
私は実際の小道具や舞台背景を描く事に興味があるのではなく、それらの精神を一種の距離感を生み出す装置として自分の絵画に適用しています。絵画は依然として月明かりに照らされた風景として機能するけれど、視点が微妙に変化している、と言えば分かりやすいでしょうか。
シルケ・オットー・ナップ
「The Questions: Silke Otto-Knapp」ペルニレ・アルブレトセンによるインタビュー
Kunstkritikk 2023年9月13日
オットー・ナップの絵を前にすると、まず気づくのは、そこに描かれているものよりも、描かれていないものの存在感です。彼女の絵の中の人物たちはいつも輪郭だけで佇んでおり、顔を持たず、ある振付の途中で時間が止まったかのように静かに息を潜めています。
オットー・ナップの制作は、塗ることと同じくらいに消すことに重心がありました。水彩絵具の支持体である紙を「説明的すぎる(illustrational)」として避け、代わりにキャンバスの上に水彩絵具やガッシュを塗り重ね、剥がすという独自の技法を用いました。絵具の顔料がキャンバスの表面に浮かび上がり、彼女はその分離した顔料をキャンバスの他の部分に移動させたり、水や乾いた布やスポンジを使ってその顔料を取り除くことによってウォッシュとレイヤーを密に繰り返します。それらの痕跡が堆積することで無数の階調へと分かれてゆき、暗闇のようなネガティブな空間が生まれ、それらを背景にモチーフである人影や風景の輪郭がゆっくりと浮かび上がってきます。描くという行為が、ここでは消去という行為と分かちがたく結びついており、この過程を経てモチーフと画面の間に高い緊張感、表面と奥行き、透明性と不透明性が生まれます。この絵画空間における両義性が、作家のアプローチの核心にあるものでした。
主題としてオットー・ナップが繰り返し選んだのは、パフォーマンスと身体です。バウハウスの舞踏家クサンティ・シャヴィンスキー、イヴォンヌ・レイナーやトリシャ・ブラウンといったポストモダンダンスの先駆者の振付けや、ファスビンダーの映画を舞台化した演劇の場面などが繰り返し作品に参照されています。本展で展示される大型の作品「Moontrail(Trio A)」(2010年)のタイトルは、イヴォンヌ・レイナーが1966年に初演した代表作「Trio A」より引用されています。月の光が作り出す軌跡(trail)という、月の光と振付という身体運動をひとつの絵画の中で重ね合わせたこの作品は、奇妙なことに、モチーフは静止しているのにどこか揺らいでいるようにも見えます。あるいは、写真の粒子感、色褪せが絵画的に翻訳されているようにも見えます。
2006年に制作されたダンサーを描いた作品群は、いずれも銀色、白色、灰色、薄茶色などの限られた色調のグラデーションが、光で構成された舞台空間のように画面に繊細な輝きを与えています。「Lilac Garden (2)」(2011年)は、76点からなる版画連作シリーズ「Lilac Garden (Rehearsal)」(2011年)の一部です。アントニー・テューダーのバレエ作品「Jardin aux Lilas(ライラックの庭)」(1936年)がタイトルに引用されています。物語によってではなく、姿勢・視線・微細なジェスチャーといった身体言語によって心理を表現するという、20世紀バレエにおいて画期的であったこの舞台の視覚言語の脱構築、再構築という主題への関心が、この時期の彼女の制作にあったことがうかがえます。
オットー・ナップは振付師のマイケル・クラークの仕事に強い関心を抱いていました。クラークの振付けはクラシック・バレエを形式言語として用いますが、制作過程でその規律が転覆したり、修正されたりすることで相反する概念が生み出され、それらが複雑な緊張関係をもって共存しており、そのことに魅了されるとインタビューにおいて語っています。これは彼女の絵画に対するアプローチと共振しているといえるでしょう。
風景を描くときも、オットー・ナップは身体や舞台を描くときと同じ眼差しを向けていました。彼女が後期に描いた人物のいない静謐な風景画、本展で展示する「Rainbow」(2019年)や「Birds and waves」(2019年)においても、図(ポジティブ)と地(ネガティブ)が絶えず変換するような気配が漂っています。
作家の死後、彼女の作品は一連の個展や批評活動を通して注目を集め続けています。そして、同世代、若い世代に創造的な視点を与える存在としての影響力もますます高まっています。
Taka Ishii Gallery Kyobashi(タカ・イシイギャラリー京橋)
https://www.takaishiigallery.com/jp/
東京都中央区京橋1-7-1 BUILDING 3F
tel:03-6434-7010
