EXHIBITION | TOKYO
牧野貴(Takashi Makino)
「Constellation」
<会期> 2026年9月19日(土)- 10月3日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休
*シルバーウィーク中の9月21日(月祝)、9月22日(火祝)、9月23日(水祝)は開廊
ANOMALYでは、9月19日(土)から10月3日(土)まで、牧野貴の個展「Constellation」を開催いたします。
映画、現代美術、音楽、写真、コラージュ、インスタレーション、オーディオビジュアル・パフォーマンスなど、さまざまな領域を横断しながら、光と時間、記憶と知覚をめぐる映像表現を追求してきた牧野貴。本展では、《Constellation》(2025)と、新作《Microcosmos 2》(2026)を中心に、《Constellation》の制作の起点となった約30点のコラージュ作品および新作コラージュ作品約20点もあわせて展示します。
1978年東京都生まれの牧野貴は、2001年に日本大学芸術学部映画学科撮影・録音コースを卒業後、渡英。ブラザーズ・クエイのアトリエ・コニンクを訪問し、映像、照明、音楽に関しての示唆を受けました。その後、カラーリストとして、多くの劇映画やCF、ミュージックビデオ等の色彩を担当し、フィルムおよびビデオに関する技術を高めながら、2004年より自身の作品の上映を開始しました。
2011年にはロッテルダム国際映画祭短編部門で最高賞となるタイガーアワードを受賞。ハンブルグ国際短編映画祭、モスクワ国際実験映画祭、25FPSクロアチア国際実験映画祭でもグランプリを獲得(いずれも日本人初)するなど、国際的に高い評価を受けています。これまで120都市以上で作品が上映され、恵比寿映像祭(2025/2019、東京都写真美術館)、第14回上海ビエンナーレ(2023)、ドクメンタ14(2017、アテネ)、あいちトリエンナーレ(2010)などの国際展をはじめ、金沢21世紀美術館 (2026)、M+ (2025、香港)、Empty Gallery(2019/2016、香港)、オーストリア映画博物館(2017、ウィーン)、Whitechapel Gallery(2016、ロンドン)、MoMA PS1(2013、ニューヨーク)、サンフランシスコ近代美術館 (SFMOMA、2009)、New Museum(2008、ニューヨーク)などで発表してきました。
また、Jim O’Rourke、大友良英、Machinefabriek、Simon Fisher Turner、Lawrence Englishら国内外の著名な音楽家とのコラボレーションも数多く行っています。坂本龍一がニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで行った限定ライブの模様を収録した映像作品『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK: async』にも映像を提供しました。
牧野は、身の回りのさまざまな対象--旅先で出会った光などの自然現象や風景、人間、街、古い写真、フィルム、印刷物など--をフィルムやビデオなどのフォーマットで撮影します。そうして得られたイメージに、複雑な事後加工や重層化を施しながら編集することで、対象を色彩、粒子、明滅、運動といった光の諸相へと変容させ、有機的な抽象映像を立ち上げていきます。
本展の核となる作品《Constellation》(2025)は、2021年から2024年nにかけて制作された多数の紙媒体によるコラージュ作品をもとにした、21分の映像作品です。コラージュの素材となったのは、コロナ禍以降、北米、南米、ヨーロッパ、東南アジアなどを訪れた際に、古書店や蚤の市で入手した古い雑誌や新聞などの紙媒体です。
「Constellation=星座」とは、離れた場所にある星々を人間の眼差しが結び合わせることで生まれるものです。離れているもののあいだに線を引き、関係を見出すことで、ひとつの像が現れます。牧野のコラージュもまた、異なる履歴をもつ断片を隣り合わせることで、もともとは存在しなかった関係を立ち上げます。コラージュで隣り合ったイメージは、撮影と編集の過程で幾重にも重ね合わされ、光/運動/音を帯びた映像へと変容していきます。
このとき、コラージュは単なる素材ではありません。そこには、過去に誰かによって選ばれ、記録され、流通し、保存されてきたイメージが含まれています。それらを別の文脈へ置き直すことで、牧野は、異なる時間に属するイメージを現在の知覚のなかへ呼び戻します。そこでは、何が残され、何が忘れられてきたのかという、イメージの歴史そのものもまた組み替えられていきます。
静謐で印象的なオリジナルサウンドトラックは、米国オレゴン州を拠点に活動するLiz Harris(a.k.a. Grouper)が担当しています。完成した映像に合わせてポートランドのハリウッド・シアターでライブ演奏が行われ、映像と音楽が不可分に結びついた作品となりました。
新作《Microcosmos 2》は、100年以上前のマジックランタン(幻灯機)用スライドに残された光の断片をもとに制作された映像作品です。17世紀に発明されたマジックランタンは、蝋燭やランプを光源に、ガラスに描かれた図像をレンズを通してスクリーンに投影する、現在のプロジェクターの原型ともいえる装置です。
さまざまな時代や場所で投影された光を、牧野は再び撮影し、複数のイメージを重ね合わせることで、新たな映像空間を立ち上げます。ここで現れるのは、過去のイメージの「再現」ではありません。かつて投影され、すでに失われたはずの光が再びスクリーンに現れることで、過去に属する光が、現在の知覚のなかに入り込むのです。過去を現在へ回収するのではなく、異なる時間を同じ画面のなかに置き直すこと。そこでは、過去は現在から切り離されたものではなく、いまこの瞬間の知覚を構成する時間として現れます。
何層ものオーバーラップによって構成された牧野の映像を暗闇の中で見るとき、鑑賞者の前に浮かび上がるのは、映像の再現的イリュージョンというよりも、明滅や移ろいによって生み出される純粋な光の運動の位相です。無数の色彩と光の粒子へと世界が断片化され、何かを描写するという目的から解放された映像は、複数のレイヤーの重なりのなかから、微細な光の変化として立ち現れ、鑑賞者の身体的な知覚に直接働きかけます。ここでは、映像は「何かを映すもの」である以前に、光そのものの運動として経験されるのです。
こうした映像のあり方は、映画や複製技術が人間の知覚のあり方を変化させると論じたヴァルター・ベンヤミンの議論とも響き合います。牧野の映像表現は、映画という一つのジャンルや上映形式に収まるものではなく、写真やコラージュ、音楽、インスタレーション、ライブ・パフォーマンスへと広がっていきます。そこで映画は、光と時間を経験するための装置となります。
個展「Constellation」に際して
私たちは、一つの人生しか生きることができない。それでも私は、日常の光や影、古い写真、光を内包したフィルムを見つめるたびに、もし異なる時間、異なる場所に生きていたなら、どんな人と出会い、どんな時間を過ごしたのだろうと想像してしまう。
私にとってコラージュや映画作品は、異なる時代、異なる土地、異なる記憶や光が偶然出会う場所である。それらは私がすべてを設計し、コントロールして生み出すものではなく、旅先で出会った光、拾い集めた断片、古書店で見つけた印刷物、百年以上前のマジックランタンのスライドなど、それぞれ異なる時間と意味を宿した断片が、私の手の中で偶然に巡り合い、予想もしなかったような新しい風景を立ち上げていく。その結果として現れる作品は、私自身にも決して完全には予測できない。
私はこの世界を説明したいとも、理解し尽くしたいとも思わない。むしろ、この世界がどれほど果てしなく、どれほど理解し尽くせないものであるかを忘れたくない。呆れるほど途方もない無限の前で、過去と未来の間で、目の前に立ち現れては消えていく光の断片を少しずつ集め、組み合わせていく。そこには誰にも説明できない小さな宇宙的広がりや、まだ誰も見たことのない可能性が、自分自身の想像を超えた形で姿を現すことがある。これがマックス・エルンストがコラージュ論の中で語っていた「奇跡」的な瞬間なのかも知れないと、作品を作るたびに感じる。
私にとって作品制作とは、事前に設定した一つの答えを示すものではなく、古代の天文学者がカオスとしての星空の中に星図というコスモスを見出したように、まだ名前のない新しい出会いを見つけるための行為そのものであると言える。
牧野 貴
世界をひとつの解釈に閉じることなく、理解し尽くせないものの前に立ち、断片と断片のあいだにまだ見ぬ関係を見出していくこと。牧野は、その小さな発見を「星座」として私たちの前に差し出します。
本展「Constellation」は、失われた光や、過去のメディアに刻まれたイメージを、現在の知覚のなかでふたたび出会わせる試みです。そして、その「星座」を完成させる最後の一点は、スクリーンの前に立つ私たち自身の眼差しなのかもしれません。
また、9月26日(土)には、最新作《Imagination》と《still life》の世界初上映を行います。上映後には、青柳龍太氏と、埼玉県立近代美術館主任学芸員の大浦周氏を迎え、牧野貴とのアフタートークを行います。映画と現代美術、写真と映像、音楽と映像、アナログとデジタル、過去と現在牧野の作品を形づくるさまざまな要素について、作品の背景や制作方法をひもときながら、「見る」という経験そのものをめぐって語り合います。
短い期間の貴重な展覧会となります。お見逃しのないよう、ぜひご高覧ください。
