EXHIBITION | TOKYO
山本渉(Wataru Yamamoto)
「欲望の形」
<会期> 2018年11月22日(木)- 12月22日(土)
<会場> Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku
<営業時間> 12:00-19:00 日月祝休
2018 年 11 月 22 日(木)より、Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku にて、山本渉個展「欲望の形/Desired Forms(2012-2017)」を開催いたします。今回は 2012 年に発表した「欲望の形」シリーズに連なる新作を発表いたします。
カール・ブロスフェルトの『芸術の原型』(1928 年)に倣って撮影されたそのオブジェクトは、その細部の明晰さも相俟って、 いわば「新即物主義的」に、ある事実を我々に伝えている。
事実。これらのオブジェクトは、ペニスではない。
撮影されたオブジェクトとは、男性用性玩具(オナホール)の内側(=ペニス挿入部分)を石膏で固めて取り出した立体物であ る。したがって一見するとそれはネガとしての人工ペニスである。がしかし、山本が撮影したそれらの写真は、見れば見るほ どにおよそペニスらしからぬ異形さを湛えている。それはあたかも現代都市に自生する植物群のようであり、木下直之が「と ろける股間」と形容した、修正され単なる盛り上がりと化した野外の男性裸体彫刻の性器とはまた違う時間の研磨を受けてい る。人間工学とユーザーへの綿密な聴き取り調査に基づいて開発を続けていった結果、オナホールの空洞部分は、ペニスと一 致するよりもむしろ離れていくこととなった。ペニスのリアリズムも、ヴァギナのリアリズムも、製作の条件-拘束具として はもはや機能しない。石膏の輪郭線は快楽の最大化と技術的可能性によってのみ縁取られる。
新即物主義の作家たちは、同時代に流行していた観賞用の多肉植物を好んでモチーフとして取りあげているが、ここには、単 に被写体の選択だけではなく、「新即物主義的」な撮影手法の選択においても、植物という自然を、無生物的、商品的、もっ といえば機械的なものとして取り出しうるという可能性への確信が見てとれる。機械化と資本主義化が推し進められた彼らの 時代においては、単なる自然主義は現実を掴みきれない。すべてが商品として欲望のもとに流通しうる現実を十全に過不足な く印画紙に定着させるための技術-芸術として、多肉植物は即物的に撮影されている。ブロスフェルト以上に、たとえばアンネ・ビエールマンの撮影したサボテンの方が山本の実践と重なり合うのは、そのためだ。
撮影されたこの奇妙な、しかし確実に実在するオブジェクトは、山本自身の経験が蝶番となって、東京・秋葉原という街へと 結びつき、さらにサブカルチャー、インターネット空間へと連想されていく。そこには無論、2008 年に起きた「通り魔事件」 の残響が谺している。ここで我々は暫定的な結論を得る。これらの写真は、欲望に造形され特殊化していく社会の表象なのだ、 と。しかし凍てついた視線によって貫かれたその写真は、再度我々に呼びかけている。
注意。これらのイメージは、社会そのものではない。
今回の新作として、作者はオナホールのパッケージイラストの女性をプロジェクターで投影したカラー写真を発表している。 鮮やかな光を浴びる異形の物体には、そもそもにおいて異形である女性キャラクターの身体、そして肥大化した眼が貼りつき、 こちらを向いている。ここで性をめぐるありようがねじれているのは確かであるが、その議論へと安易に舵を切ることはよそ う。ここでの飛躍は思った以上に大きく深い。我々はまず、事実と注意から始めるほうがよいだろう。できるだけ入念に。そ れが何かわからなくなるくらいに。
長谷川 新(インディペンデント・キュレーター)
■作家ステートメント
「オナホール」と呼ばれる男性用性玩具の内側(空洞部分)を石膏で固め、取り出した立体物を撮影した写真群が「欲望の形」 である。このシリーズは、人工的なヴァギナ(オナホールの穴)を反転し人工的なペニスとして撮影することによって欲する者 の総体を捉えようとする試みであり、また多様なオナホールが生み出される生態系―オタクカルチャー、秋葉原という街、ネ ット空間とが複雑に絡む現象/空間―をガラパゴス化した自然林と捉え、そのキノコを採集せんとする私自身の欲望でもある。
わざわざ撮影を行うのは、具体的なプロダクトを基にしつつ実体なき像を探求するためであり、カール・ブロスフェルトを範にしている。
今作は2012年に初めて発表した同シリーズの新作にあたり、主に2012年から2017年までの間に発売されたオナホールを対象に して制作している。2007年から秋葉原のアダルトショップでリサーチのためのアルバイトを始め、2008年の秋葉原通り魔事件 を目の当たりにし、秋葉原の変容を観察してきた自分にとって2018年という年は節目にあたる。オナホールの穴から覗くこの 10年間の停滞と進展のイメージを目の当たりにしてほしい。
2018年の新作個展には、2012年に発表したシリーズと同様の手法を用いたモノクロ等身大プリントと、オナホールのパッケージに描かれるキャラクターを光(プロジェクション)として石膏像に投影したカラープリントの作品を発表する。
山本 渉
Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku(ユミコチバアソシエイツ)
http://www.ycassociates.co.jp
東京都新宿区西新宿4-32-6 パークグレース新宿#206
tel:03-6276-6731