EXHIBITION | TOKYO
Chim↑Pom from Smappa!Group
「穴の中の穴の中の穴」
<会期> 2025年10月11日(土)- 11月9日(日)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休
*Art Week Tokyo期間(11月5日 – 9日)は10:00-18:00 オープン。*11月9日(土)は開廊
ANOMALYでは、2025年10月11日(土)から11月9日(日)まで、Chim↑Pom from Smappa!Groupの個展「穴の中の穴の中の穴」を開催いたします。
Chim↑Pom from Smappa!Groupは、現代社会のリアルに全力で介入し、ユーモラスでありながら切迫感を帯びたプロジェクトを実践、作品を制作・発表している、日本を代表するアーティスト・コレクティヴです。彼らの活動は単なる批判や風刺にとどまらず、社会が周縁化してきた領域に批評的視線を向け、不可視化されたものに焦点を当てます。
本展「穴の中の穴の中の穴」は、都市のインフラに口を開けるマンホールや下水の穴といった多層的な「穴」と、宇宙デブリなどの「屑や瓦礫」を主題にしています。「穴」がしばしば「奈落」のメタファーとして機能してきたこと、また惑星都市理論において都市が送電線やパイプライン(チューブ≒穴)によって結ばれていること、それを宇宙デブリなどの廃棄物と重ね合わせて捉えることは、これまでの彼らの実践の延長線上に位置づけることができます。
それは規模や次元の異なる対象を横断的に取り上げつつ、いずれも「残骸」「欠如」「不可視」といった概念において重なり合うものです。こうした広義の「穴」や「不可視なもの」に着目することは、私たちが切り捨て、忘却し、あるいは直視しないよう努めてきた事物や空間—しかも社会を規定してきたもの—を批評的に再配置する行為であり、環境問題やゴミ問題が深刻な現在、顕にすべきものでもあります。
宇宙デブリは、科学技術の進展が「生産」し続ける廃棄物であり、現代における「ゴミ」の極限的形態です。そこには、バタイユが「非生産的支出(dépense)」として論じたように、人類の活動が不可避的に生み出す余剰や浪費の痕跡が刻まれています。廃棄物は無意味な残滓であると同時に、文化を批評する視座を提供する記号でもあります。デブリは未来世代への暗黙の問いを含んだ「負の遺産」として宇宙空間を漂い続けています。
折しもイーロン・マスクの政治活動が露骨になった現在、実見することが叶わぬ宇宙空間において、それはもはやロマンではなく社会そのものの現象でありながらも、しかし、かつて日本の漫画やアニメで繰り返し描かれた未来の宇宙戦争の破片であるかのような、ファンタジーの予言的顕在化にも思えます。
また「穴」は単なる欠損ではなく、新たな意味や秩序を誘発する潜勢力を帯びています。つまり「穴」は、生成の場として捉え直され得ると考えられます。都市インフラの「穴」は、社会を支える見えない身体といえます。日常生活に不可欠でありながら、そこに開いた穴はしばしば忘却され、意識の周縁に追いやられています。こうした不可視の基盤を照らし出す行為は、近代都市が制圧してきた領域を掘り返すことであり、ベンヤミンが描いた「都市の廃墟的断片」に接続します。都市の穴は、社会が表面化させた秩序の裏側に潜む、忘却の空間です。
こうした多層的な「穴」を扱う実践は、美術史的にも重要な文脈を持ちます。ロバート・スミッソンが「非生産的な地形」として廃墟や採石場を作品に取り込み、アースワークを通じて自然と人工の境界を撹乱したこと、あるいはミニマリズムが「空虚」や「空間の切断」を造形化したことを想起すれば、Chim↑Pom from Smappa!Groupの試みはこれらの系譜を継承しつつ、ゴミやインフラといった同時代的な物質を介して「穴」という問題系を再構築しているといえます。
本展で展示される作品の一つである、新たな《ビルバーガー》の、ビルの構造体・スラブに挟まった廃棄物(逆にいうと都市空間の「穴」に積み重なった廃棄物)は、社会の周縁や日常の隙間で廃棄される「不要物」となった存在を可視化し、繰り返されるスクラップ・アンド・ビルドの象徴です。《ビルバーガー》は、従来の都市的秩序や空間の機能を批評的に再考させるだけでなく、鑑賞者に社会的・環境的な問いを呼び起こす装置としても機能します。穴や宇宙デブリの概念とともに提示されることで、《ビルバーガー》は、微視的な都市空間と巨視的な宇宙空間を横断し、欠如や空白の多層的な意味を可視化するChim↑Pomの、批評的実践といえます。
さらに、《ビルバーガー》と同様に、日常の細部に潜む微視的な「残骸」や「穴」を象徴化する作品である《垢太郎》の新作も発表します。世界中のアーティストたちから収集された、オーガニックな垢から生成される《垢太郎》は、壮大な宇宙とは逆に、作品世界をミクロの方向に拡張し、鑑賞者に不可視化されてきた物質への批評的視線を呼び起こす装置として機能する点で、《ビルバーガー》やスペースデブリと相補的な位置づけを持ちます。
「穴の中の穴の中の穴」というタイトルは、入れ子状に連鎖する欠如の構造を示すと同時に、社会や宇宙の周縁に押しやられた「不要」と「空白」が多層的に重なり合う現実を映し出しています。それはまた、芸術が現代においていかなる方法で「見えないものを見せる」ことができるのか、という根源的な問いを喚起します。
本展は、Chim↑Pom from Smappa!Groupの実践を通じて、「不要」や「欠如」、「不可視」が孕む想像力のポテンシャルを批評的に提示するものです。
3年ぶりのANOMALYでのChim↑Pom from Smappa!Groupの個展です。同時期に天王洲で開催されるMeet Your Art・アートエキシビションでは小室哲哉氏とのコラボレーションで新作パフォーマンスを発表しますので、万障お繰り合わせの上、ぜひご高覧ください。
ANOMALY (アノマリー)
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tel:03-6433-2988
