EXHIBITION | TOKYO
エレナ・トゥタッチコワ(Elena Tutatchikova)
「From Where the Sound of Currents Comes - 音がやってくる、そのあたりに」
<会期> 2026年10月31日(土)- 11月28日(土)
<会場> TOMIO KOYAMA GALLERY Tennoz
<営業時間> 11:00-18:00 日月祝休
この度、小山登美夫ギャラリー天王洲では、エレナ・トゥタッチコワの個展「From Where the Sound of Currents Comes ― 音がやってくる、そのあたりに」を開催いたします。トゥタッチコワにとって弊廊での初個展となる本展では、新作を中心に、ドローイング、ペインティング、セラミックのレリーフを発表いたします。
【本展に寄せて ― エレナ・トゥタッチコワ テキスト】
ドローイングやペインティングについて、これはどこの風景なのか、とよく尋ねられる。旅した場所や、歩いた場所なのか。本当は、この質問にはっきりとした答えはない。ドローイングの好きなところのひとつは、描いたものが風景のように見えるとしても、実は場所についてのものではない、ということだ。
わたしは風景のなかを移動するのが好きだ。移動しながら風景を見ることは、思考に軌跡を残し、つくるものにも響いていく。それでも、これは特定の場所を描いたドローイングではない、と答える。では、想像のなかの場所なのか。そうだね。それに、すべての風景は想像のなかのものだ。だからこそ、とても現実のものでもある。想像力は、思考を動かしていく。
詩人メアリ・ルーフルは、エッセイ『On Imagination』のなかで、詩人マイケル・バーガードとの会話について書いている。バーガードは、想像力を「『遠距離での不思議な振るまい』として考えるのが好き。これは、科学者たちが、遠く離れていても互いに反応する電子について語るときに使う表現だ。[…] その存在を感じることができる」と言っている。1
想像力は誰にでも起こっている--それを自分のなかに受け入れれば。そして、外へ出せば--それは形をとり、誰かほかの人のなかで存在しつづける。想像力はどこにも属さない。所有したり、捕獲したりすることはできない。それでも同時に、それはわたしでもあり、あなたでもあり、ほかの誰でもある。すべてを通って、循環していく。
それを、作品になる前から、ほとんど物理的なものとして感じるときがある。作品は、突然の出来事から始まるものではない。現れてくるもの――それを想像力とでも、思考とでも、存在と呼んでもいい――は、わたし全体をめぐり、内側と外側にある何かに応答し、みずからの時間のなかで形をとっていく。
内から外へ、外から内へ――この動きは、終わることがない。手のなかには、思考の内側にも外側にもあるその存在とつながっている何かがある。想像力――思考の物質のようなものが動いている。そして、素材や手に応答しながら、みずからを現していく。それだけのこと。
あるドローイングは数分で現れてくる。あるドローイングは、描いている途中のペインティングのそばに何日も置いて、少しずつ描き足していき、あるとき、これだね、となる。セラミックの彫刻やレリーフも、いくつかの動きのなかから現れてくることがあれば、ひとつのものが別のものへと変化しながら動いていき、やがて何かが現れて、そこにとどまることもある。それでも、わたしのなかでは動きつづける。
7年ほど前、山のなかの湿原のそばで、テントで一晩泊まったことがある。5月の頃だった。夜になると、ある音が暗闇と空気を満たし、わたしとまわりのすべてを取り囲んでいた。奇妙な電子音楽のような音で、何千もの小さな宇宙船が互いに話し合っていたら、そんな音がするのかもしれない。それはもちろん、カエルの鳴き声だった。水辺を少し歩こうと、外へ出た。すると、どこか離れた場所で、小さなテントが暗闇のなかできらきらと瞬いていた――まるでその音に応えているかのように。小さな星か惑星が、わたしから何千光年も離れたところで光っている。わたしたちはどちらも、宇宙のなかにいた。
最近、トーベ・ヤンソンの『少女ソフィアの夏』をふたたび読んでいたとき、その山の湿原の暗闇で光っていた小さなテントが、ふと浮かんできた。そのなかに『テント』という話がある。小さな島で祖母と父親と暮らすソフィアが、一晩テントに泊まる。木々や海に包まれ、鳥や生きものたちに囲まれて、野生のなか、ひとりで過ごす。その話を読んで、ふと思った――そうだ、これが想像力というものなのだ。想像力は、このテントのようなものだ。そのなかを、近くからも遠くからも、さまざまな音が行き来し、わたしを取り囲み、通り抜けていく。わたしはこのテントのなかにいて、同時にその外にいる。そして、わたしを取り囲む「すべて」になっていく――その存在と、分かつことのできないものとして。
エレナ・トゥタッチコワ
1 メアリー・ルーフル『On Imagination』、p. 25(Sarabande Books、2017年).
【本展について】
トゥタッチコワにとって、想像すること、思考すること、つくることは、内と外を行き来しながら互いにつながり、循環するプロセスです。そして想像力は、不確かなもの、まだ知らないものへと思考が動いていく、生きることそのものと切り離せないものです。
言葉になる以前の思考のあり方を問うなかで、ドローイングやペインティング、セラミックによる彫刻などを通して、思考が少しずつかたちをとっていきます。
ペインティングやドローイングには、絵具が外へと広がっていくような筆の動きが、セラミックのレリーフには、手に応じて粘土が押され、伸び、形を変えていった痕跡が残されています。思考と手の動きが交わるなかで現れる風景や形は、ひとつの状態に固定されることなく、絶えず生成し、変化していきます。
本展を通して、トゥタッチコワは「想像する」ことのあり方を探り続けます。作品との出会いを通して、見る人のなかにもまた異なる風景がひらかれていく、その可能性をぜひ会場にてご覧ください。
TOMIO KOYAMA GALLERY Tennoz(小山登美夫ギャラリー天王洲)
http://tomiokoyamagallery.com/
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex Ⅰ 4F
tel:03-6459-4030
