EXHIBITION | TOKYO
小平篤乃生(Atsunobu Kohira)
「Carbon Variation N˚1」
<会期> 2017年9月1日(金)- 9月26日(火)
<会場> Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku
<営業時間> 12:00-19:00 日月祝休
2017 年 9 月 1 日(金)より、Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku にて、小平篤乃生個展「Carbon Variation N°1」を開催いたします。
石炭という素材をめぐって小平は数年の逍遥を続けている。出会いは走査顕微鏡で見た景色だった。レンズの向こう、超クローズアップの石炭の地肌は美しきグレースケールの世界で、まるで未知の惑星のごとき壮大な眺めだったという。そこから始まった旅を「石炭の巡礼」と小平は名付けたが、あらかじめ定められた目的地はなく、決まった道筋もない。 数億年前を生きた巨大なシダ植物たちが地中深く埋もれ、地熱でじりじりと熱せられ、計り知れない圧力をかけられて錬成される過程を想えば、石炭という物質は彫刻的に生み出されると言えるかもしれない。温度を加え、ゆっくりとこねられ、冷えてできた彫刻。それは、人類が現れるより遥か昔、地球上に繁茂した生き物の証左であり、生成されるまでの永い永い年月を無言のうちに内包する塊/ヴォリュームである。
地域的な偏りが比較的少なく、埋蔵量の多い化石燃料である石炭は、人類にとって身近なエネルギー資源だ。それは燃やされて電気エネルギーとなり、暮らしの中に偏在している。今回、小平が展示室で想起させるのはそうしたエネルギーへと変換された石炭だが、エネルギー というよりもむしろ生命の源泉であるところの「精気」というべきかもしれない。地球が生み出した漆黒の彫刻、石炭に宿る精気。エネルギーはその精気の発現である。石炭を用いて特別に創られたインクが、ウォール・ドローイングのメディウムとなり空間を満たす。ドローイングの基点となる壁面の電源から採られたエネルギーは、部屋を薄暗く照らす明かり(その暗さは洞窟を思わせるという)となり、スピ ーカーを通って間欠的なノイズを響かせる。こうした小平の手つきには、石炭の精気の「可視化」ではなく、「空間化」または「ヴォリューム化」という言葉がふさわしい。かねてより音は小平にとって重要なモチーフのひとつであるが、この非物質的な存在に対しても、彼はそれが空間を満たすという点において量塊/ヴォリュームをもつと考える。音量を大きくすることをヴォリュームを上げると言うが、小平の 実際に空間を占める音の体積が増えるような、あたかも彫刻的イメージを持っている(もちろん実際にはそれが振動現象であることは了解の上で)。空間全体を満たすドローイングが音を伴って光のなかに立体的に立ち現れるとき、黒いダイヤとも言われる石炭の精気が、それが生み出された長い年月を超えてヴォリューム化される。 興味の赴くまま、偶然の出会いに導かれて「石炭の巡礼」は続く。本展はその旅の一章であり、ボキャブラリーにこだわるなら「一巻(a volume)」 であるとも言えるのだろう。
橋本 梓(国立国際美術館 主任研究員)
■作家ステートメント
絶え間なく溢れる力が光と音を作り出す。
そのエネルギーはどこから来るのだろうか。
どこへゆくのだろうか。
石炭の墨と糸。
手が植物の化石に染まり。
エネルギーの影が残る。
エネルギーについて考え始めたのは6年前。最近は、石炭をテーマに作品を作っている。掘り下げればどこまでも続いている。でもまだ見えない光に続いているような気がする。そこには古代の精霊がいる。
僕はこの精霊との遭遇を求め続けている。精霊が放つエネルギーの糸を伝って、石炭の巡礼をしている。
小平 篤乃生
Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku(ユミコチバアソシエイツ)
http://www.ycassociates.co.jp/
東京都新宿区西新宿 4-32-6 パークグレース新宿#206
tel:03-6276-6731