EXHIBITION | TOKYO
できやよい(Yayoi Deki)
「海」
<会期> 2026年6月10日(水)- 7月11日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休
ANOMALYでは、2026年6月10日(水)から7月11日(土)まで、できやよい個展「海」を開催いたします。
できやよいは、デビュー以来、海に通う独自のスローペースを保ちながらも、継続的に注目を集めてきたアーティストです。国内外に熱心な支持層を持つほか、金沢21世紀美術館、森美術館、高松市美術館などに作品が収蔵され、その評価を着実なものにしてきました。
2017年の山本現代、2025年のペロタン香港での個展では、「マイノリティ・フラッグ」を主題とした新作群を発表。セクシュアル・マイノリティに限らず、動物愛護運動やパラリンピックなど、多様な存在への視線を含めたシリーズでした。
主に約120cm四方の画面に、フィンガースタンピングによって無数の色彩と顔を描き込んだ作品群は、一見ミニマルでありながら、極めてスペクタクルな強度を備え、水平に重ねられた色彩は風にはためく旗のように揺らぎ、近づくことで無数の顔が現れます。それらは、多様に生きる人々の存在や記憶を想起させる、きわめて身体的な絵画です。
2024年には、LGBTQ+関連イベントにて、国際的ファッションブランド・LOEWEのメインビジュアルにも起用され、渋谷の街頭を大きく彩りました。
できの作品が持つ鮮烈な色彩と祝祭性は、単なるポップなイメージとしてではなく、多様な存在を可視化し包摂する視覚言語として、アートの領域を超えて広く共有されています。
できは一貫して色彩への強い関心を持ち続けてきましたが、マイノリティ・フラッグに用いられる多彩な色彩には、多様な生や価値観を肯定する思想が含まれており、作家はそこに強く惹かれたと語っています。鮮やかな色彩は単なる視覚的効果ではなく、社会の周縁に置かれてきた存在を可視化するための構造として機能しています。
本展では、そうした政治的文脈からやや距離を置き、2018年以降「さどの島銀河芸術祭」で発表してきた「海」をテーマとする作品群を、新作を交えて紹介します。画面には色とりどりの人々の顔に加え、パンダを思わせる動物的モチーフも現れ、作家に通底する少女性や幻想性が浮かび上がります。海というモチーフは、境界であり、漂流であり、記憶の堆積する場所として、できの制作において重要な意味を持っています。
新作を含む平面作品、佐渡島で制作された立体作品によって構成される空間を通じて、身体、記憶、物質の関係性を探ります。海辺で採集されたファウンド・オブジェクトや、多層的に重ねられた絵具は、鑑賞者の移動によって絶えず見え方を変化させ、知覚の不確かさを浮かび上がらせます。
できの作品において反復とは、いわゆる形式ではなく、身体と時間を接続する行為です。指で絵具を押し重ね、同じイメージを繰り返し描くプロセスは、微細な差異と痕跡を蓄積させ、制作行為そのものを空間に留めます。その表面のグラデーションは、完成されたイメージというより、生成と崩壊のあいだの揺らぎの状態として現れます。反復される行為のなかには、快楽と執着、祝祭性と狂気が同時に宿っているようです。
できの作品は、視覚的な強度によって世界を覆い尽くすのではなく、言葉になる以前の感覚や曖昧な記憶へと接近しようと広がっているようです。そこにある過剰な色彩やキャラクター性は、単にポップな表象ではなく、不安や孤独、身体的記憶を祝祭へと変換するための装置でもあります。
同時開催されるニキ・ド・サンファルの実践と同様に、できやよいの作品もまた、現代を生き延びるための明るい私的神話として読むことができると考えます。
両者に共通する装飾性は、単なる表面的効果ではなく、近代美術が切り捨ててきた感情性、工芸性、女性性、過剰性を回復するために機能しているように思えます。装飾とはここでは、表面を飾る以上に、理性中心主義への対抗、またはそのオルタナティブとして存在しています。
日本で久しぶりの、初夏に相応しいできやよいの個展です。ぜひご高覧ください。
