EXHIBITION | TOKYO
シャルロット・デュマ(Charlotte Dumas)
「声が届いて/絵筆を手にとって」
<会期> 2026年3月7日(土)- 4月11日(土)
<会場> TOMIO KOYAMA GALLERY Kyobashi
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
小山登美夫ギャラリー京橋では、シャルロット・デュマの個展「声が届いて / 絵筆を手にとって」を開催いたします。
シャルロット・デュマは1977年オランダで生まれ、現在もアムステルダムを拠点として活動しています。
彼女は、馬や犬など人間と深く関わってきた動物を題材に、その歴史や文化的な位置づけを注意深く観察しながら作品制作を行っています。写真、映像を主な表現手段とし、時に作品に自身の個人的な記憶や家族史を織り交ぜます。
2020年には、銀座メゾンエルメスフォーラムにて「『べゾアール(結石)』シャルロット・デュマ展」を開催。写真、映像、オブジェ、藍染の布によるインスタレーションを発表し、大きな反響を呼びました。
また、沖縄・与那国島にて、原生馬を撮影したシリーズ〈青 Ao〉を制作するなど、日本との関わりも深く、2023年の弊廊での個展にて同シリーズを発表しています。
本展では、象と、自身の父親との記憶を主題とした新シリーズ「Entendue(声が届いて)」より、写真作品を展示するほか、初公開となる新作映画「The Brush in Your Hand(絵筆を手にとって)」の上映、および映画のセットを用いたインスタレーション作品を発表いたします。映画「The Brush in Your Hand」は銀座メゾンエルメスの予約制ミニシアター「ル・ステュディオ」での上映も予定しています。
【「Entendue(声が届いて)」:人と象、親と子-異なる種が持つ共通項-】
本出展作のシリーズ「Entendue(声が届いて)」は、父親と象にまつわる自身の記憶を起点とした、写真、映画、インスタレーション、書籍等、複数の形式で展開されるプロジェクトです。
「Entendue」とはフランス語で「聞こえた/理解された」などを意味します。デュマはゾウの耳を撮影した際、私たちは象など動物の何を聞き、どのように耳を傾け何を理解しているのかに関心を持ったといいます。また象が超低周波音や非言語的な方法でコミュニケーションを行うことを知り、「聞くこと」に関わるタイトルを選びました。
幼少期からデュマは、父ピーターと共に動物園に通い、象のスケッチを描く時間を共有してきました。ピーターは細密な水彩画を制作していたグラフィックアーティストであり、生涯にわたって制作活動を続け、デュマへ大きな影響を与えた存在です。晩年にはアルツハイマー病を患い、作家である娘と作家の母の介護を受けながら、記憶や認知の変化を経て亡くなりました。こうした娘と父との記憶や経験や、二人が共有した生涯にわたる「見る」行為が、本シリーズの根幹を成しています。
象のモノクロ写真は、父の死後、作家が、かつて彼が使用していたオリンパス Pen-Fを用いて、幼少期訪れた動物園の象を撮影した作品です。35mmフィルムの半分のサイズという小さなネガには、大人の象は身体が断片的にしか写り込みません。一方で群れの中にいる子どもの象は全身が画面に収められ、か弱さと力強さを併せ持つ表情を浮かべています。
そして、象の群れの形成において、子どもの象は他の象との結束や活力となる役割を持ち、また彼らが仲間を気遣い、死を悼む行動をとる生き物であることも、本シリーズにおける重要な視点です。
父のカメラによって娘が撮影した大人と子供の象は、人と動物という異なる存在でありながらも、両者が「親と子」という象徴的な対比を共通項として持っていることを印象付けます。また、写真の表現においても、フィルムの粒子と象の皮膚は互いにざらついたテクスチャとして関係し合い、写真と鉛筆画の狭間に漂うような別の何かに変容しているかのようです。
「Entendue(声が届いて)」は、象の家族(やその形成)と作家自身の家族――父との記憶や、娘を持つ作家自身の立場――を重ね合わせることで、人間と動物という異なる種を、同じ感覚を持つ存在として捉え直そうとする試みでもあります。
また、これらの写真は、父による象のドローイングとともに、書籍『Entendue』として刊行されました。
鑑賞者は作者と父の記憶や制作が思い出のように交差するこれらの作品を通じて、ある父娘の記憶の断片を追体験することになるでしょう。
【新作映画「The Brush in Your Hand(絵筆を手にとって)」:受け継がれる記憶と創造性】
こうした記憶の連なりは、新作映画「The Brush in Your Hand(絵筆を手にとって)」へと展開していきます。
本作は、作家自身、父ピーター、末娘のアイヴィという三世代を軸としたポートレイトです。
家族の記憶と創造性の継承をめぐる物語により焦点が当てられます。
劇中にて、ピーターは、自身の絵画や日記の断片を通して映画の中に姿を現します。一方、アイヴィはおもちゃのネズミのために段ボールの家を作ります。それは直感的で触覚的な「作る」行為であり、祖父とは別のかたちで彼の粘り強さを反響させています。二人の異なる創造の営みが行き交う中で、過去と現在は静かに織り合わされ、娘であり母でもある撮影者、デュマ自身の役割が次第に浮かび上がってきます。
また、映す人(デュマ)、映される人(ピーター、アイヴィ)の三者が相互に交差し合う構図は、創造的な行為によるケアの在り方さえも映し出すようです。
そして作品「Boxes Rooms」は映画に登場し、アイヴィーとデュマが映画撮影期間中に制作したものです。
娘の工作から着想を得て作られたダンボールの箱の部屋は、誰かが暮らしていた痕跡を感じ取れるほど詳細に作り込まれており、父が生前使用していたスタジオや家族が過ごすリビングルーム、デュマ自身のスタジオなどを模しています。
映画では、これらの箱やピーターが実際に使っていた部屋にポジフィルム(スライド画像)が投影され、母である作家、娘、そして記憶の中にある父という三者をつなぎ、現在と過去の記憶を媒介する「場」として機能します。
受け継がれゆく記憶と創造をめぐる、シャルロット・デュマの最新作。
それは私的なテーマでありながら、家族の記憶や動物という普遍的なモチーフを通じて、見る者へ温かな共感を呼び起こします。同時に、家族や動物という存在を手がかりに、他者と自己との両者に見いだされる差異や共通項、そして共生についての思考を深める契機となるでしょう。この機会にぜひご高覧ください。
TOMIO KOYAMA GALLERY Kyobashi(小山登美夫ギャラリー京橋)
http://tomiokoyamagallery.com/
東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F
tel:03-3528-6250
